ピストンコーティング:Q&A
イタリアの車に乗っているのですが、純正でピストンコーティングしています。
ショップの方にすぐ剥がれると聞きました。 持たないのではないでしょうか?
日本とは基本的にコンセプトが違い、ヨーロッパは慣らし運転が終わるまでのピストン、シリンダの保護で、簡単に言えば慣らしの時さえ持てばいいという考え方がヨーロッパのコーティングです。
具体的な違いは、ヨーロッパはバインダー樹脂(接着剤の役割)にエポキシ樹脂等を、日本ではポリアミドイミド等を使っているので、耐久性に違いがでます。 また、固体潤滑材も違います。
環境にシビアなヨーロッパでは、グラファイト系を使用しています。
コーティングは決して硬いものではありません。いずれは磨耗してしまいます。極端に言えば自分が磨耗する事で相手と母材を少しでも長く守るというイメージでしょうか。
mitでは、いろいろな業種メーカーの多種多様な処理を受けおい処理していますが、最初に基本的な事をご説明します。
「万能な表面処理はありません。どれにも長所短所があり、何でもかんでもすればいいってものではありません。特に潤滑系の表面処理において部品の基本設計が悪いものには性能を十分に発揮できません。」
処理したい部品にかかる荷重や熱、その他色々な条件によって変わります。
例えばフッソ系コーティングは、摺動スピードが速く、軽荷重、摺動するような部品に適します。
モリブデン系は、摺動スピードが遅く、高荷重、特に極圧のかかる様な摺動に適します。
簡単に説明するとしたらこんなところでしょうか。これは基本的な事であり、それぞれの部品の使い方及び目的によって、それぞれ固体潤滑の世界があります。
その中でも、ピストンコーティングにWPC&モリブデンショットとモリブデンコーティングどちらがいいでしょう?という質問も多いですね。
低トルクの町乗りする車種にはWPC&モリブデンショットは効果があると考えられます。 逆に高トルクのスポーツカー、2輪車など高回転エンジンにはモリブデン系コーティングをお勧めしています。
余談ですが、純正でWPC&モリブデンショットは、代表的なのはホンダフィット等に、モリブデンコーティングでは、スバルインプレッサ、ホンダインテグラ、シビック等に、分かりにくいところでは大型重機などに純正使用されてますね。あげればきりがありません。
ここ最近大型バイクなど(特に高回転エンジン)では、年々ハイパワーになり国内外問わず、かなりのメーカーはモリブデン系コーティングをしている割合が高いようです。
mitでは、個人またはショップ様のピストンに関しては、量産ではないのでそれぞれにピストンに適したMGPコーティングを処理をしています。
雑誌やネットでピストンコーティングしてる商品を見ると、スカート部のみで、ランド部はコーティングしていないのは、なぜでしょうか?
ランド部: ピストンリング周辺のピストンの上部
スカート部: ピストン下部
ピストンは、基本的に台形の様な樽型になっています。ランド部はスカート部の直径よりも、コンマ何ミリか小さくなってる上、ピストンリングもあるので、シリンダに当たる事がほとんど無いという理由からコーティングしていないのがほとんどだと思います。もちろん、一般的にはランド部はコーティングしていません。
mitでは量産の流れ作業的な処理はせず、使用条件、材質など色々な条件に合わせ、見た目より機能を重視して、一つ一つ処理をしています。 物によってはランド部も処理しています。特に戦前のクラシックカーのピストンなどは、焼きついたら即新品購入という訳にはいかず、社外あるいは他社純正ピストンの流用も不可能な事が多いため再生して再使用というのがかなり多く、手に入らない貴重なピストンなどは、ランド部ももちろんコーティングしています。
「ピストンリングとのクリアランスが狭くなって、不具合が・・・」なんて言う方もいるかも知れませんが、当然コーティング膜厚も考慮しています。
全く問題ありません。
レースでピストンコーティングされた物を使いたい。
馬力などはあがるのでしょうか? レスポンスは変化するんでしょうか?
コーティングしたからといって、パワーはあがりません。ただ、目的の一つとして、ピストンとシリンダのクリアランスをモリブデンコーティングでその隙間を少しでも埋め、圧縮漏れを少なくするという考えなら良いと思います。
ピストンとシリンダのクリアランスを狭くすると焼きつきますが、モリブデンコーティングは硬いものではないので、強いあたりのところは自ら磨耗し、適度な当たりのところでとまります。
また、燃料が薄く、ピストンが高温にさらされ、異常に膨張する様な状態で走り続けば、どんないい処理でもいずれ焼き付きます。
しかし、レース中の使用では焼き付き無く使える場合があります。(短時間使用のため)
レスポンスに関してですが、基本的にエンジンはオイル潤滑です。
エンジンスタート時はオイルが回っていないため、ピストン、シリンダー間の摩擦力は大きく、コーティング有無によりピストン、シリンダ間にかかる摩擦力は倍近く変わります。しかし、しばらくしてオイルが回ると摩擦力は極端に小さくなり、コーティング有無で差はほとんど無くなります。(流体潤滑状態)
弊社としては、スカート部にピストンコーティングなど表面処理した場合に、レスポンスは体感できるほど変化するとは考えにくいと思います。
気になるのは、オーバーホールする時は、ピストンコーティングや、いろいろな新しいパーツなどを交換し、トータルで良くなるため、どれが一番効果が大きかったかというのは一般的には判断しずらいのではと考えます。その中で、「一部のパーツによりいい結果が出た」というのは少し考えにくいと思います。